労作展

2020年度 受賞作品

英語科

書くって難しい

1年S.E.君

 小学四年生の頃から、 受験生として訪れた三回の労作展。 目を奪われ、 その仕上がりの素晴らしさに感動した作品は、 どれも美術科や技術科のものだった。 元々何かを作ることが好きで、 空き時間には趣味で模型やロボットを作っていた僕が、 普通部に入学したら労作展で制作してみたいと思ったものは、 やはり手の込んだ絵画や緻密な模型。 論文類の作品という選択肢は、 頭の片隅にもなかった。 当時の僕には、 論文類、 特に文系科目のものは、 難しくて地味なものにしか映らず、 興味を引かれなかったのだ。
 時は経ち、 二〇二〇年の春、 僕は無事普通部に入学することができた。 初めての労作展に選んだテーマは、 英語小説の創作。 正しく論文類、 しかも文系科目である。 この選択の背景には、 僕も受験を経て少しは成長し、 論文類に取り組むことの魅力も分かるようになったという事実もある。 しかしそれよりも、 本好きな自分の心のどこかに以前からあった、 物語を書くことへの憧れが増してきていたということが大きい。 物語を通して全く新しい世界を創造するという、 このテーマの本質に惹かれたということが決め手だった。 また、 新しい何かを創り出すという意味では、 このテーマは美術科や技術科に通じるものもあると思う。 ジャンルとしては、 「新しい世界を創造する」 という色が一番濃い、 異世界を舞台とするファンタジーを選んだ。
 しかし、 いざ書き始めると次第に不安が生じてきた。 頭の中にあるぼんやりとしたイメージを頼りに、 何となく物語を書き進めることに疑問を感じたのだ。 このまま書き進めていって、 後で行き詰まることはないだろうか。 もしもある程度書いた後でそんな事態になったら、 もう引き返すことも難しいだろう。
 そこで、 一旦書くのは中断し、 図書館の本などを活用して、 小説の書き方やファンタジー世界の創作についての勉強を始めた。 学んだ中には、 既に何となく分かっていたこともあれば、 なるほどと感心させられ、 大いに参考になるものもあった。 こうしてまずは基本の知識を学ぶのに二週間費やした後、 執筆を再開した。
 学んだ知識に加えて役立ったのは、 やはりそれまでの読書経験だった。 特にファンタジー小説に関しては、 多くの本を読み自分なりに分析してきたことで、 読者の目線を大切にしながら物語を書くことができた。 例えば、 話の展開が遅くて飽きる感覚や、 物語が複雑すぎて読み進めるのが億劫になる感覚。 そうしたマイナスの印象を読む人に与えないようにすることには特に注意した。
 執筆中は、 何度もストーリーやその背景の設定を変更したり、 書いた文に修正を重ねたりする必要があり、 予想をはるかに超える時間がかかった。 コロナ禍で旅行の予定もなく、 部活や学校関連の行事もない中、 ぼくの夏休みは一日の大半を労作展に費やす日々の連続となった。
 そんな中、 僕にとって大きなモチベーションとなったのが、 「必ず読んでくれる誰かがいる」 という事実だ。 ここでいう誰かとは、 僕の提出する作品を読んでくださる先生方である。 せっかく物語を書いたとしても、 素人の自分が初めて、 それも英語で書いた小説を人にあげても、 困惑されるだけかもしれない。 いくら物語を書くことが楽しくても、 読んでもらう当てがなければ、 途中でモチベーションを失ってしまうだろう。 しかし、 労作展に出品するのなら、 作品を必ず読んでくれる先生がいる。 そのことが大きな励みになった。
 今回初めて本格的に物語を書くという経験をしたことで、 今まで何気なく読んでいた本も、 その一文一文の裏に、 作者の思い入れや苦悩や大量に費やされた時間があるのだろうということに気づいた。 本に向き合う姿勢も変わった気がする。 物語が好きだという想いも更に強くなった。
 労作展に始まり労作展に終わった僕の夏休みは、 じっくり考え、 学ぶことの多い充実したものだった。 自分にとって大きな何かをやり遂げた達成感を胸に、 来年の労作展に臨みたい。