労作展

2019年度労作展 受賞作品

国語科

ノートパソコンと過ごした夏休み

3年T.K.君

 『君は月の光に照らされて』。僕の夏休みのすべてを費やし、犠牲にしてやっと出来上がった労作展の作品名だ。総枚数は原稿用紙に換算して四百七十枚。終わってみれば、思ってもみなかった分量の作品になっていた。

 去年の作品は、賞は貰えたものの不完全燃焼だった。なぜ、不完全燃焼なのか。それは、分量が比較的少なかったのもあったが、作品としての軸が見つけだせなかったからだ。今回の作品では、「過去を乗り越える主人公とヒロインたち」「成長に伴って深まる友情、そして恋愛」「三角関係の解決によって成長するヒロインたち」という三つの軸を決めて、具体的な設定や展開を考えた。

 そして、今年最も重視したのは、感情表現の描写だ。去年は三人称で物語を進めた。しかし、今年の作品は、一人称で書くことにチャレンジした。一人称視点というのは、主に主人公が見ている世界を描くため、より難易度が高く、また主人公の考えや感情しか書けないため、主人公以外のキャラクターの心情や思いを直接落とし込むことができないのだ。そのため、登場人物たち以外の心情を、どのように描いていくかを、執筆中はいつも意識していた。例えば、そのキャラクターの行動や、主人公が見た仕草や表情によって、読者に感情を予測させるような表現をよく用いるようにした。主人公と読者の予測をあえてずらすことで、より読者が物語に引き込まれるようにしたり、主人公に、より共感できるようにしたり。すると、三人称では描けない展開を書けたので、一人称で描いたのは正解だったと思う。

 また、自分の作品と、有名な作品を融合させる、というのも、やりたかったことの一つだった。使わせてもらった作品は、サンテグジュペリの『星の王子さま』、童謡の『きらきら星』など。僕だけが書いたものでは、伝えたいことが薄れてしまう。また、有名な作品が、物語の世界と現実の世界の架け橋になることで、より読者と物語の世界の距離を縮め、面白さが増すと感じた。これは、去年の作品の反省を活かすことで浮かんだ案だ。

 一方で、去年の良かった部分も活かした。それは、推敲の重要性だ。去年も今年も三回推敲をしたが、つくづく推敲の大切さに気づかされる。推敲という作業は、もちろん誤字脱字などの表面的なミスを修正するのもある。でも、一度頭を冷やして自分の文章を見つめ直すことを、繰り返し、繰り返し行うものだと思う。そのため、より読者に近い視点で物語を追えるので、おかしな部分や分かりにくい部分が浮き彫りになる。また、母にも作品を読んでもらい、読者の客観的な意見を聞いて、沢山の箇所を修正することができた。

 四百七十枚の道のりは、努力と苦労と迷いと汗が詰まった毎日だった。

 僕の夏休みの一日の始まりは、八時半起床から始まる。九時ぐらいに朝食を済ませ家を出る。そして、太陽の光が容赦なく刺さってくる中、ノートパソコン片手に、執筆の拠点にしているスターバックスへと向かうのだ。やっと涼しい場所に来られたと思っても、夏を満喫するカップルたちがイチャイチャしている中、執筆しなければならない。結局、いつもあつい中の作業だ。そんなリア充への憂鬱と嫉妬をエネルギーに変え、恋愛小説を書いてる自分の様を、今振り返るとかなり滑稽だ。でも、書いている時間は、まるで別世界で起きていることを主人公の目から覗いているような、そんな感覚になる。僕は、本を読んだりアニメを見るときともまた違う、書いているとき独特の没入感が好きなのだ。

 迷ったところも沢山あった。決めていた第一稿の締め切りを四日も延ばして書いていた時は本当にしんどい思いをした。焦りに追われながらも、頭と手を一日何時間もフルに働かせる修行のような毎日だった。二日間で原稿用紙百枚分も書いた時もあった。

 労作展初日。期待と不安を胸に教室へ向かうなか、賞の札を見る前に友達から受賞の知らせを聞いてしまい、ネタバレを食らった。「まさかな」そう思いながら紙をめくるとペンクロスのハンコがあった。夏休みに犠牲にしたすべてが報われた瞬間だった。