社会科
創り上げたもの
1年T.T.君
「賞取っていた?」
僕の何気ない一言に、母は
「自分で見てきたら?」
と、冷静に応えた。何かの意図をもった言葉だと思えたがあえて口にしなかった。
労作展初日、自分より先に展示された作品を見に行った母は家で嬉しそうな表情で感想を語った。二日目に行く予定だった僕もとても楽しみだった。
二日目の朝一〇時、普通部についた僕は一早くクラスルームに向かった。どのように展示されているのか気になっていた。もちろん賞を取りたい気持ちがあったが教室に入った時、賞と書かれた紙の貼ってあるクラスメートの作品を初めに見た。それにより自分の作品を探す僕にはどこか心配だった。賞はクラスでもほんの少しだけだと聞いていたためだ。ただ、その心配はそう長引かなかった。
反対の方向を向くと大きな地図が飾ってあった。自分の作品だとすぐに分かった。その途端、少し前まで探すのに必死だった僕が恥ずかしくなっていた。「賞」をとり、安堵したこと以上に一般の方に見られる側に立ったことを強く実感したのだ。夏休み期間中に少しずつ時間をかけてじっくり作り上げた作品であることは自信を持って言える。そんな作品を覆い隠したくなった。
初めての労作展のテーマとして僕はコンビニエンスストアを選んだ。きっかけは七年前に姉が別の地域でコンビニ調べをしていたことだ。手伝ったことのある作業は印象深く、自分も挑戦してみたいと考えていた。そして、自分の住む渋谷区の南部を調査範囲に設定してコンビニがどのような場所に立地しているかを調べていった。
七回に分けて全一四八軒ものコンビニを徒歩や自転車で一つ一つ回った。行くルートを事前に把握し、現地で順序良く調べられるようにした。また、店のレジの台数や売場面積、コンビニ周辺の様子など八つの項目を入れた内容のコンビニ調査用紙を自分で制作した。
コンビニに寄るだけのようなことだと思い込み、高をくくっていたが実際はもっと厳しかった。コンビニ一軒当たりで調べる項目を多くしてしまったために一軒で三〇分程かかることもあった。慣れるまでは苦労の連続で、一日に一〇店舗ちかくしか寄れなかったことも多々あった。
正直、この作業がすぐに終わるだろうと進めていたのでかなり後回しになっていたが、現地調査を全て終わるまで論文での考察を書くなどの作業に進まないことに気づいた。その日から僕は頭が労作展のことでいっぱいだった。
特に出た結果を基に作る統計や分析に力を入れた。統計では調査用紙から情報を得て、全一四八軒のコンビニのデータを一二の項目で一つの表に表した。分析では統計を基に円グラフ化して割合を示した。どちらもパソコンでの作業だったが、気が遠くなるほど時間のかかるものだった。
完成させたのは提出の二日前。時間をかけて作ったこの労作に僕は誇りを持つことができた。