労作展

2019年度労作展 受賞作品

社会科

戦果

3年T.M.君

 題材は自由。これほど厄介なものがあるだろうか。題材を選択する時点から労作なのだ。誰も題材として選んだことのないものにしたかった私は「帳合之法」という本に焦点を置いた。この本を知っている普通部生は私以外いないだろう、福澤諭吉が記したものにもかかわらず。簡単に言うと現代でいう簿記について書かれており、日本に簿記という概念を広めた本である。この本をいずれ読むために、労作展という機会に簿記を学習しよう。そう思ったのが長いようで短かった三年間の始まりだった。

 一年生。簿記には検定試験があり、初級、三級、二級、一級の順に難易度がアップする。これに合わせて学習しようと考え、一年は初級に挑戦した。また簿記の事前学習として、商業高校の教科書二冊のレジュメを行った。加えて学習した簿記を使用して何かの経済活動を表そうと思い、自ら出店したフリーマーケットの取引結果を簿記で示した。一年次は社会科の先生の中に銀行出身の方がおり、その人に作品を高く評価して頂いたらしい。ありがたく賞と特別展示をつけてもらえた。

 二年生は簿記三級。レジュメは商業高校教科書の一年次よりレベルの高いものにした。経済取引シュミレーションゲームを簿記三級の内容に改造して、実際にゲームをプレイし、取引を簿記で表した。二年連続の賞と特別展示。三年次に向けてプレッシャーがかかった。

 三年は簿記二級。これまでは簿記と言っても商業簿記のみだったが、工業簿記が二級から加わった。今回は大学の商業学テキストのレジュメに挑んだ。また友達に協力を仰ぎ、絵画作品の原価計算を行った。見事三年連続を獲得。三つのメダルが家に並んだ。

 私の労作展は事前学習→簿記学習→簿記で表わすという順で三年間進められた。一年次は簿記に触れるのが初めてなので完成するのに提出期限ぎりぎりまでかかってしまった。二年次は慣れてはいたが、作業量が倍以上になり三年間の中で一番つらかった。三年次は二級の範囲がとても広いため簿記学習は苦労したが、三年間で一番余裕があった。

 賞を取りたいと思うとそれなりの努力は必要不可欠であり、学年が上がるにつれて内容も高度なものにしていかなければならない。作業量で攻めるという手はあるが、調べ学習になりやすくあまり好まれない。また工夫も必要だ。学習した簿記を何かに結び付けて表すというような学習の集大成的な物を作ると良いだろう。

 三年間同じ内容で続ける人もいるだろう。特に社会科はそれが行い易い科目だ。アドバイスとしては自分が興味のあることをやること。親に強制的にやらされたものや興味のないことをやっても続かないし、つまらない。「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」と言われるように、向上心は肝要である。また発展性・応用性のあるものが良いかもしれない。基礎から応用まで幅広い内容・範囲がある題材をチョイスすると選択肢が広がり、三年間続けやすいだろう。私の場合は高校三年生での卒業研究までも今回学習した簿記、あわよくば『帳合之法』に手を出したいと考えている。先を見据えることも大事だ。

 私は一年生時の講評の際、簿記を題材にした作品は初めてだと年配の先生に言われた。誰も題材としたことのないことをやる異端イノベーションの精神も持ってほしい。

 夏休み全てを労作展に費やす人も多いはずだ。中学生の夏休み、青春を捧げて臨む労作展は報われるべきだと思う。そのためにも皆が見てこれはすごいと思う作品を仕上げてほしい。しかし残念ながら先生によると近年、社会科の作品の質は低下傾向にあるらしい。歴史を筆頭に調べ学習になりやすい科目ではあるため、現地調査やインタビューなど実際に自分で動いて見たり聞いたりすることを軸とした作品が少なくなっているのだろう。後輩には先輩の作品を見て、ポイントを盗み、作品制作に利用してほしいと切に願っている。

 ガラスケースに飾られたフクロウ、ライオン、カメレオン。三匹の動物達はあの夏の日々を思い出させる。