労作展

2019年度労作展 受賞作品

音楽科

自ら考え、自ら学んだ労作展の三線発表

3年T.T.君

 この作文は普通部会誌に載る。普通部会誌に載る作文のほとんどは、格好良い事を並べる。でも自分は特殊だ。僕は正直な普通部生という目線で書こうと思う。

 「今年の労作展のテーマは何にしよう。」

 普通部生なら誰しもが通る鬼門だ。ここで普通部生は二つに分かれる。賞を狙って全力でやる者と、労作展に出展する作品として最低限恥ずかしくないものを創ろうとする者だ。自分は前者寄りの中間だった。昨年は音楽科で三線をやった。それなら今年はその三線を進化させて展示しようと思った。昨年やったというアドバンテージがあったので、簡単だと思ったからだ。これが最大の誤算であり、最高の選択だった。

 さあ、テーマも決まったし、何をするのか決めよう。ここからは自分という普通部生としての目線で書こうと思う。昨年は、ただ弾き語りをしただけだ。何か進化を加えなければ意味がないし、労作展での最低限の作品以下になってしまう。そんな頃自分がよく見ていた歌い手の動画配信者の動画に、「一人多重奏」という動画があった。そこでパッと思いついた。「自分でやりたい曲の音を聞いて、三線で弾いて二重奏にしよう。」だった。瞬間的に思いついたにしては良い案だと思った。

 正直、作品の準備はいくら時間があっても足りない。僕は五月上旬からやり始めた。時間が足りないと分かっていてもまだまだ時間はあると思ってしまうので、ダラダラしながらやっていく。まずは「オワリはじまり」という歌にしようと決断する。最初にやるべきは、音を聞いて三線の楽譜に起こす事だ。自分は歌は上手いと自負しているが、音楽はまだまだ初心者だ。メロディーの一つ一つを聞き取るのに相当苦労した。一週間程でメロディーが完成。二重奏にするための裏パートはどうしようか悩んでいた時、ふとギターのコードが思いついた。三線でコードを演奏しようと決めた。

 前にも述べた通り、まだ音楽初心者の僕はコードが何かも知らない。それなのに僕は「三線のコード弾き方」とネットで検索した。完全なる愚行だった。基礎を学ばずに応用にいってしまった。混乱する一方だった。一週間程悩んでやっと基礎を勉強していないことに気付いた。「コードとは何か?」とネットで検索。悩みは一瞬で解決した。そんな事等に右往左往しながらも、何とかコードを作り終える事に成功した。

 そして僕はふと気が付いた。自分は今正真正銘「本物」の普通部生だと。「ダルい」や、「面倒臭い」などと言いながらも、やる時は一生懸命に。「自ら考え、自ら学ぶ」そして自ら創造していく。これが本質的な本物の普通部生である。前に、「労作展に出展する作品として最低限恥ずかしくないものを創ろうとする者。」がいると書いた。しかし実は、そんな考えは労作展の準備に取り組み始めるとすぐに無くなる。皆、全力でやるのだ。思い出して欲しい。労作展の作品で苦労していない作品があっただろうか? いや、一つとして無かった。そんな普通部生らしさを考えていると、何だか自分が普通部生であることが誇らしかった。

 一旦、普通部生論は置いておいて、労作展準備の話に戻ろう。なんやかんだで「オワリはじまり」を作り終わり、「海の声」でもやってみようと思った。メインの音は昨年演奏したので覚えている。問題はやはり裏パートだった。「オワリはじまり」はコードだったので聞いて作った訳ではない。しかし、この歌の場合、重なっている音を自分で聞き分ける必要がある。これがまた難しい。何日も何日も聞き続けて何とかやり切ることが出来た。

 それからは歌やメロディーの暗記等が続き、時間もどんどん過ぎていった。気付けば八月の下旬だった。そろそろ展示用の録画をしなければいけない。一つでも大きなミスがあると撮り直すので相当な労力と時間がかかる。日によっては朝の四時から九時までやり続けることもあった。何度も何度もやり直してやっと成功。受験で普通部に受かった時の二分の一位嬉しかった。その後も、DVD作成の為に編集等をしていく。機械音痴な自分には至難の技だった。ネットの力を借りて、何とか乗り切り、DVD作成等が完了。気付けば次の日は提出日だった。

 また月日は流れ、労作展当日を迎えた。二日間あり、二日目には音楽科コンサートがある。なので、二日目だけ学校に行った。そして僕は驚愕の光景を目にした。僕の作品の下に賞の獲得を知らせる札がついていたのだ。賞を取りたいとは思っていたが、取れるとは思っていなかった。本当に嬉しかった。他の人の作品も見て回ったが、どれも圧巻の作品だった。やはり、苦労のない作品は無かった。

 そして労作展コンサートが始まった。僕は、最後から二番目と後ろの方だった。刻一刻と自分の出番が迫る。緊張は、想像を絶する程のものだった。少しでも歩き回らないと落ち着かない。手汗も止まらない。千五百メートルを全力で走った後と同じ位心臓が鳴っている。こんな調子でコンサートを乗り切れるかと心配になりながらも待ち続けた。

 やっと自分の番がやってきた。早く緊張から逃れたいと思う一方、やってやろうという熱意もあった。観客の視線が全て僕に注がれる。全神経を集中させて一つ一つ三線の音を出していく。最初は「ヒヤミカチ節」という沖縄民謡だ。前奏から中奏、中奏から後奏にかけて序々にテンポを上げる。ミスをしない事に一生懸命だった。後奏は練習時以上にテンポを上げた。そして、何とか大きなミスも無く弾き切ることが出来た。

 次は、裏パート作成が大変だった「海の声」だ。この歌は、裏パートをプロジェクターから流して音を流し、メインパートを自分で演奏する。裏パートとテンポを合わせるのが難しかった。気持ち良く弾くというよりかは、頑張って弾いていたのが悔しかった。キレイに伸びるような声を意識して歌えたので上手に聴こえたのではないかと思った。

 最後はコード作りに苦労した「オワリはじまり」だ。これは、メインパートをプロジェクターに流し、自分がコードを演奏しながら歌うという形でやった。やはり、テンポを合わせるのが難しかった。でもこの歌はとても気持ち良く歌えた。

 全ての演奏が終わり、檀上から降りる。その時の観客からの拍手は嬉しかったし清々しくもあった。コンサートが終わり、労作展で僕のやるべき事も全て終わってしまった。これでもう「労作展は何をしよう?」と考える必要は無いのは嬉しかったが、それ以上に淋しさがあった。

 自ら学び、自ら考え、苦労しつつ自ら創造していく。これが労作展であり、普通部生というものだ。自分を本物の普通部生にしてくれたのは労作展の三線発表である。最大の誤算ではあったが、やはり最高の選択だったと思っている。