労作展

社会科

古文書道の其の先に

3年T.G.君

 一般の学校の文化祭とは、かけ離れた地味すぎる行事、労作展。夏休みに労作した、生徒の作品を展示している。決して「楽しい」イベントとは言い難い。しかし、その中で多くの普通部生は、一人一人テーマを決め、長期間に渡って労力を注ぎ、作品を完成させる。決して単なる展示会では無いのだ。

 僕は三年間「古文書道其之一・二・三」として古文書(過去に書かれた文書で、くずし字で書かれた物)にひたすら向き合ってきた。くずし字を研究しようと思ったのは単純な事だった。テレビで磯田道史先生という歴史学者が古文書をスラスラと解読しているのを見て、「自分でも読めたらかっこよくね?」と思ったからだ。

 一年生の時は一からくずし字を学ぶ為にテキストを買って勉強した。変体仮名を中心に覚えていき、実際にくずし字を読む事になった。勉強法は、とにかくパターン・形を覚えて頭に定着するまでやるのだ。文法はレ点や一・二点等、漢文に若干近い。なかなか難しい。実際に読んだ題材は、字が綺麗で読むのが比較的簡単な、鯰絵という江戸時代に出版された錦絵にした。地震は鯰によるものと信じられていた当時、彼らの考えを覗くのは非常に楽しい。古文書にはそんな魅力もある。

 ここで一つ古文書とはどういうものかと言うのを説明しておく。ここでは分かりやすい、一年次の研究で読んだものを紹介する。

 これは江戸時代の草双紙という庶民向けの絵入りの読み物だ。妖怪らしき何かが描かれており、その周りのひょろひょろした文字がくずし字。読み方は右から「卯 目がつけば 玉子のばけもの」とある。これは「卯」という文字に目(点二つ)が付くと「卵」になるという一種の文字遊びだ。ちなみにこれは十二支を怪物にたとえ、解説をつけたページの一コマだ。古文書は堅苦しいイメージだが、ユーモアのある文献もある。

 二年生はテキストや古文書解読検定、江戸文化歴史検定を通して、解読能力の向上と時代背景をメインに勉強し、漢字のくずし字にも挑戦した。

 そして、三年生。集大成のテーマは災害史について。過去の文書から発見を得るのに最適だと思い、選んだ。テーマとなる災害は、僕の地元でも被害を受けた一七〇七年の富士山宝永噴火だ。丹念に下調べをして、様々な所に行った。地元の役所や図書館、林間学校で宝永山に登ったり、遥か京都にまで。最終的には文献から地元、小田原藩内の降灰量のデータをまとめ、国の試算が少し甘いのではという結論に至った。 三年間夏休み全てを使っての研究は大変だったが、達成感でいっぱいだ。この作品は受験が無く自由にできる時間のある普通部でしか出来なかったろう。

 古文書道の先に、三つのメダルが輝いた。