労作展

2018年度労作展 受賞作品

英語科

労作展に五〇〇時間

3年T.S.君

 仲の良いクラスメイトや、部活で尊敬している同級生の作品に「賞」と書かれている紙が貼られていた。不甲斐なさが僕を襲った。一昨年の労作展のことだ。僕の作品はというと、他の美術作品の中に埋もれていた。

 翌年、つまり去年の三月十九日、僕は和文英訳を始めた。英語科にした理由、それは得意科目になり、英語に触れるのが楽しくなったからだ。一年の時には英語科をやるなんて考えもしなかっただろう。そして英語科には大きく分けて英文和訳、和文英訳という分野がある。大半の生徒が英文和訳を行う。完成形が母国語だからだ。なぜ僕はわざわざ、より大変と言われる和文英訳に挑んだのか。理由は単純で、英語で書かれた本に興味のあるものが無かったからだ。英語の本を入手するのは難しく、話題も狭まる。しかし、日本語の本となれば、十分すぎる程の選択肢がある。試しに「カラフル」という二五〇ページの本の一ページ目を訳してみた。かかった時間は五時間。作業効率アップを信じたとしても、二五〇ページなど終わりそうに無かった。いくらか探した上で、題材はテレビ東京のドラマ「相棒」の小説、一五〇ページにした。僕は「相棒」を全編見たことがあるほど大好きだ。英語、「相棒」共に好きだったおかげで、半年を通して挫折というものは無かった。僕はこの時、大好きなものなら長続きすることを学んだ。

 さらに、一五〇ページを訳すだけでなく、イギリスに住む伯母に会いに行く予定を利用し、イギリス人に読んでもらうことを考え、そして実行に移した。すると、英語を話すキッカケになったと同時に、「もっと読みたい」「伝わったよ!」などの嬉しいコメントを頂くことが出来たのである。自分の英語が少なからずネイティブ相手に伝わった、その感動が僕の中で未だ生きている。帰国後、さらにモチベーションが上がり、三七〇時間をかけて無事翻訳を終わらせることができた。そして結果は「賞」、しかも「特別展示」。作品についた紙を見たときには全ての努力が報われたと感じた。

 今年は一月一日からページ数を増やして和文英訳を始めた。題材は森絵都「カラフル」。去年一回挑戦し、諦めた本だ。美術や国語の授業の題材にしたことがあるぐらい大好きな小説だった。訳すに当たって、去年と異なることがあった。それは僕自身の立場だ。去年は、一昨年賞を取った人を追うのみ。挑戦する立場だ。しかし今年は追われる立場。翻訳している間でも、同じように英語科で挑戦している友人のことを考えてしまって集中が切れることも珍しくはなかった。だが、終わらせるという目標に変わりはない。「筆者の技」とも言える、巧妙な表現を相手に、苦しみながらも、言い換える方法を必死に考え、その苦労を制作日誌に書き、四九〇時間をかけてゴールに辿り着いた。制作日誌は五冊にも及んだ。結果は、光栄な「特別展示」。さらに、二十枚の「みんなの労作展カード」と、この作文を書く権利まで頂いた。この二年間、がむしゃらにやってきて良かった、本当にそう感じる。

 五〇〇時間労作展に費やした、と友人に言うと

「その分ゲームに費やせたじゃん!」

と言われた。それはごく自然な発想だ。そして二年前の僕は絶対にそう思っていた。しかし、ひと夏を本気で、何か真面目な事に費やすのは、ものすごく楽しい。終わった時の嬉しさで、道中の苦労や葛藤が全て吹き飛ぶ。こんなに大切なことを、労作展が僕に教えてくれた。一つのことに何百時間も費やすという経験はこの先、あるかないか分からない。だからこそ、この労作展を通して経験できたこを誇りに思い、改めて努力が報われたと感じる。そして少し寂しく思うのである。