2019年度 目路はるか教室

2019年度 目路はるか教室
2年全体講話

普通部生に伝えたいこと 目路はるか教室

昭和40(1965)年卒業森アーツセンター

壬生 基博 氏(みぶ もとひろ)

 目路はるか教室の講演にお声をかけて戴きありがとうございます。孫のような世代に何をお話ししようかと迷っていたところ、初代世話人代表平井俊邦さんからは、君の生まれのことを、昨年の世話人代表の水野正望さんからは生き様を話して欲しいと言われました。しかしながら、生まれや生き様といっても、他人からは自慢や苦労話になってしまい、面白くないのではと思いました。そこで、慶應義塾に学んだことの素晴らしさについて、そして、実際に仕事を通じて感じたことの中から、普通部生に関心を持って欲しい「文化の力」と「生物多様性・環境問題」について話をしました。

 皆さんから沢山の感想文を戴き、大変嬉しく思っています。私が伝えたいことを、それぞれの立場で受け止めてくれて、多少なりとも、今後の人生の参考になればと願っています。

 私は幼稚舎から大学まで16年間、慶應で過ごしました。慶應義塾には、生まれや身分や家柄とは関係なく、分け隔てなく学べる思想があり、お陰で普通の学生生活を送ることが出来ました。そして、慶應には、塾で学んだ者が生涯、母校に注ぐ思いを持つ学塾であるという「慶應社中」という福澤先生が考えられた精神があります。私も社会人になり、それぞれの環境や仕事を変わるたびに先輩方から、数々のサポートを戴いてきました。慶應の本当の良さは、卒業してからにもある、ということを伝えたいと思いました。

 「文化の力」:森ビルは文化都心をコンセプトに六本木ヒルズを建設し、その中心の森タワーの最上階に森美術館を設置しました。森美術館は世界から高い評価を戴き、森ビルのブランドイメージを向上させ、企業価値を高める一因になっています。また、六本木アートナイトや東京国際映画祭など、文化の力により、地域の活性化にも貢献してきました。その他、お台場には森ビル・デジタル・アート・ミュジアムをチームラボと共同で開館し、これは大変な人気で昨年の開館以来300万人が訪れました。その中にはトランプ大統領夫人など、多くのVIPも含まれ、来館者の半分は外国人が占めています。

 日本には森美術館がやっている現代アートだけでなく、多くの文化があります。今後、世界で活躍するためには、日本の文化を知ることが非常に大切だと思います。

 「生物多様性・環境問題」:山階鳥類研究所は、アホウドリを鳥島から小笠原の島への世界初めての移住計画や、日本で唯一飛べない沖縄の鳥、ヤンバルクイナの学術的な発見など、鳥に関わる仕事をしています。鳥は神話の世界から身近な存在ですが、手に届かない距離を保ってきたため、意外と鳥の生態については分からないことが多いのが現状です。鳥は自然のバロメーター、環境の指標であります。山階鳥類研究所は鳥の研究を通じて、「生物多様性・環境問題」について貢献しています。

 今後の日本を担っていく皆さんには、それらのことに関心を持って欲しいと思います。

 最後に自分として、いつも心掛けてきたことを伝えます。「人とのお付き合いについては、丁寧にする」「情けは人の為ならず」。情けは人の為だけではなく、いずれ巡り巡って自分に恩恵が返ってくる。人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがては良い報いとなって自分に戻ってくるのだから、誰にでも親切にするようにということです。

 この度は、人生を改めて振り返るよい機会となりました。私は人生を自ら求めて環境を変えてきたというよりは、与えられた環境の中で、自然体で生きてきました。それぞれの場面で、自分は何をすべきか、自分に何を期待されているのかなど考えて、今まで過ごして来たように思います。いろいろと挫折や壁に当たりながら生きてきましたが、何よりも、人に恵まれ、環境に恵まれ、運にも恵まれたと思っています。

 

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