2020年度 目路はるか教室

2020年度 目路はるか教室
3年全体講話

感染症の危機管理:未確立の領域に挑む

1991(平成3)年卒業国立保健医療科学院 健康危機管理研究部長

齋藤 智也 氏(さいとう ともや)

 講師として名前を挙げていただいたこの年に、たまたま新型コロナなるものが世間を騒がせ、その対応に深く関わっていたことから、全体講演という貴重な機会を戴けたものと想像します。また、かつて師事した諸先生を前にしてお話しできる機会を戴けたことは大変光栄でした。世話人の皆様、諸先生方に厚く御礼申し上げます。

 今回の講演では、専門とする公衆衛生についてまずお話ししました。続いて、感染症対策の基本的な考え方を紹介した後に、今回の新型コロナウイルス感染症の初期対応の背景、特に「クラスター対策」について、仕事場の写真も交えてお話しいたしました。最後に自分のキャリア選択に至った道のりをお話しいたしました。

 いただいた感想文は全て2回読みました。興味や関心を持つところ、心に残ったところは様々で、大変楽しく読みました。1度に数百万人の健康を守り、命を救う—そのために単に個人の健康状態のみならず、社会的背景にまで目を向ける—そんな公衆衛生の基本概念に多くの方が共感してくれたことを嬉しく思います。さらに、単に私が語った言葉を取り上げるだけでなく、内容を自分なりに咀嚼して考えなどをまとめてくれた人もいました。講演は聞くだけではなく、感じたことを言語化し、友人らと共有し、いろいろな見方、捉え方を補ってさらに自分なりの考え方を形成していくことで、みなさんにとってより役立つものになるでしょう。
ここでは、講演でお話ししたことをいくつか補足したいと思います。

●最後は「えいやっ」と飛び込む

 この言葉に勇気づけられた人が多かったようです。人生の選択肢が無限大の今頃は悩み多き時でしよう。背中をちょっと押してくれる言葉が欲しい頃なのかもしれません。ただ、なんでも考えずに闇雲にやってみよう、というのとは違います。熟慮の挙句、もうこれ以上考えてもどっちが良いかはわからない、というときに「えいやっ」が出てきます。「えいやっ」と飛び込んで正しい道を選べるかは、その決断に至るまでの熟慮や日々の積み重ね次第です。普段の積み重ねが、最後の紙一重の決断の成功に結びつくのだと思います。

●自分が心を動かされることってなんだろう

 好きなこと、やりたいことを見つける、というのとはやや違います。日々の日常、行動の中で、惹きつけられたり、面白いと思ったり、楽しいと思ったり、感動したり、そのような「自分の心が動いた」時に、なぜそれに自分の心が動かされるのか、ということを考えてみて欲しいと思います。それを繰り返していると、自分が本当にやりたいことが目の前に現れたときに、それにすぐに気づくことができるでしょう。

●教育とは、学校で学んだことを忘れた後に残るものをいう

 普通部の教科で何が一番役に立ったか?という質問をもらいました。「習ったことは全部忘れてしまいました」と答えましたが、二つの意味があります。一つは、中学までに学ぶ内容は社会で生きる上での基礎なので、すべて消化し吸収して、学んだことも忘れてしまった、という意味です。もう一つは、えてして教室で学んだことはみんなすぐに忘れてしまうもの、ということなのですが、教室で教わったことが普通部で学んだことではないし、先生方もそんなことを期待して毎日授業をされているわけではないでしょう。普通部という場で3年間を過ごし、ここで学んだことを忘れた後に残るもの、その大きさがいずれ分かる普通部の凄みであり、先生方とOBの方々が築き上げてきたものです。

 最後に勉強の話もしました。改めて、社会には試験範囲はありません。誰も決めてくれません。採点項目も採点方法も、決めるのは自分です。採点するのも自分です。自らの評価は自ら行う、それが独立自尊の一つではないでしょうか。自分で自分を評価する軸を、社会に出るまでに掴み取っていってもらえればと思っています。

 

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