2017年度 目路はるか教室

2017年度 目路はるか教室
3年全体講話

日本人の心 普通部生へ

昭和39(1964)年卒業年卒業株式会社 山本海苔店 代表取締役副社長

山本 泰人 氏(やまもと たいと)

 卒業54年たって、普通部生に、僕の思いを伝える機会を得た事は本当に感動といってよいと思います。在学中は個性的で情熱あふれる先生がたのご指導を得、良い友とともに感激の面持ちで卒業したのは、昨日の事のようですが、もう54年を経たことは驚きです。この中で、山本登国際経済学ゼミナールで学び、体育会剣道部で厳しい剣道の稽古で獣身を養い、三色旗を背負って慶早戦に出場し、その後も稽古を続けて教士七段まで到達しました。卒業してからは第一勧業銀行で仕事をし、山本海苔店にあっては営業や企画、商品開発等を中心に進めて会社経営に関わり、かたわら、青年会議所をへて商工会議所、厚生労働省の審議委員、のれん会や老舗についての勉強、中央区や日本橋の地域振興活動に関わって世の中と接してきました。このような人生のルートは僕らの中では割とユニークな道筋だったかもしれません。そこで、これらの体験の中から僕が今日の時代にあって、色々と思っていることについて皆さんと分かち合いながら、これからの時代に向き合う姿勢を探って見ようとする試みを共に進めてみたいと考えています。それは、これからのデジタル時代と社会、それに向き合う「日本人の心」です。

 まず、これからを俯瞰してみましょう。

 ビルゲイツ、スティーブジョブズ、そしてアマゾンのジェフべゾス。これらの人たちはまだこの30年間に登場してきた人達です。しかし、人間の情報伝達や生活の隅々にまで変化を及ぼしています。これは、エネルギーや電気、電話、自動車等の第一次産業革命、そしてインターネット、パソコン登場の第二次産業革命であり、そして今回のデジタルネットワーク、AI、IоTなどの発達は第三次産業革命とよばれるそうです。これらは、進化が進化をよんで、いずれは、AIが人間を追い越すシンギュラリティーを迎えるとも予測されています。人間の社会、そして世界、日本はどのようになるのでしょうか。マッキンゼーの警鐘では、地球人口の増大、経済中心地の移動、先進国の高齢化、デジタル社会の急速な進展をあげています。伊藤元重先生もAIやIоTの進展と急速な社会への伝播を指摘しています。亡くなったスティーブジョブスは、アップルを開発した人ですが、自分の直感を生かす事が最も重要で貫く事を若者たちに説いて亡くなりました。

 そして、このような時代の様相を目の前にして私が皆さんに話したいのは、これらに対峙する日本人がどうあるべきだろうかという事です。そして、これまでの2000年にわたる日本人の紡いできた長い歴史から、日本人の心がどんな特色をもっており、これまでなかった変化に対応するときにどんな点を大切に持ち続けるべきかという事で、これを共に考えてみたいと思います。そこで、僕の感じる日本人の心を列記してみたいと思います。

<第一の心>天孫光臨です。神々がこの世に降りられてより、歴代の天皇がお生まれになり、その後万世一系の継承でなんと今日まで子孫が継承して今日まで続いています。これは、日本人の社会や企業の在り方などに、空気のように入り込んでいます。持続性を大切にする、日本人の見えない柱を感じさせます。

<第二の心>聖徳太子の十七か条の御誓文の中の、「和」の精神です。狩猟民族ではなく農耕民族でもあり、常に和を貴ぶ精神は我々が強くもっている連帯感です。日本人の意志決定の遅さを指摘する見方もありますが、私は、美風だと感じます。

<第三の心>鎌倉、室町時代と戦国時代を迎えます。ここで、育まれたのは武士道精神です。おそらく、中国の論語等の思想は日本に入ってからは、生死に直面した武士道とも一体となって日本人の清貧の思想、忠義に対する考え方等に発展したと考えられます。欧州の騎士道と違って、日本人の武士道精神は世界でも独特なものとして注目されています。

<第四の心>関ケ原の戦いで、徳川家康が勝利しその後の江戸における戦乱のない時代をつくります。これは鎖国も伴い、日本人の感性と知恵が花開いた時代と感じています。近江や伊勢商人により商業は発達、また歌舞伎、浮世絵、俳句などの独特な文化の形成が行われました。

<第五の心>三井高利や近江商人による江戸商業発展の心です。三井高利は「人の気を見る事」については井原西鶴の永代蔵でも指摘されるように顧客目線にすぐれた商売を実現させました。マーケティングの先達と言えます。そして江戸はそれまでにないほど町人文化が発展しました。宵越しの銭は持たないなどのフロー経済が全国からの人々の流入もあって、江戸はそのころの世界でも最大の120万都市となりました。

<第六の心>徳川幕府の大政奉還です。なぜか。つまり、江戸城は無血の内に開城され勝海舟、山岡鉄舟等とともに、血を流す事なく革命を成し遂げたのです。この無血開城は日本人の心の最たるものでしょう。

<第七の心>福澤諭吉の独立自尊、実学の精神、学問のすすめ、交詢の思想です。江戸から文明開化の時代、日本が独立して立国するには学問を修める事以外に世界に伍する事はできないと説くと共に、人との交流を大切にする交詢社を設立しました。慶應義塾たる所以です。

<第八の心>渋沢栄一。明治維新以来、欧米で始まった産業革命の波を日本も受けていく事になります。江戸から昭和まで生き抜いた渋沢栄一は、論語と算盤を精神の柱とし、500以上の株式会社を興し、証券取引所や商工会議所を作った、日本の資本主義の父とされる人物です。一部上場の大企業の多くはこの時につくられています。

<第九の心>明治から昭和にかけて、日本は4回の世界的な戦争を体験していきます。産業革命と日本の国力の増大が世界との摩擦をおこしていった時代であったかと思います。そして第二次世界大戦で敗れた日本は戦後復興の道に入り、経済成長へむけて大きく舵をとっていきます。これらは、米国とともに、平和国家を基礎とした発展であり、世界で2位の経済大国にまで至りました。この平和と経済発展への志向は今日の私達の心の基礎にあるものだと思います。

 9つに及んでしまいましたが、これからのデジタルの急速な発展の時代を目前にして、私達日本人が忘れてならない大切な心を書き留めてみました。これから皆さんが先導者たらんとして、目路はるかな道を歩もうとする時、少しでも参考になれば幸いです。

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