2017年度 目路はるか教室

3Jコース

世界最先端の〝ものづくり〟〜接着剤化・樹脂化していく世の中〜

平成5(1993)年卒業スリーボンドファインケミカル 株式会社 代表取締役社長

土田 耕作 氏(つちだ こうさく)

 今回、目路はるか教室の講師を担当させて頂くにあたり、何を普通部生に伝えようかと考えました。普段自分が取り扱っているのは接着剤なので地味な産業です。皆さんにとって面白くないのではと悩みましたが、当社の接着剤は世界中の自動車やパソコン、スマホなど、身近な製品に幅広く使用されています。日本の接着剤メーカーが世界のものづくりにいかにして貢献しているかを知ってもらう事で、若いうちから世界で活躍する志を持ってもらえるのではないかと考えました。合わせて、私自身が慶應義塾や仕事を通じて感じた事を伝える事で、より充実した人生にしてもらえればと思い準備をしました。

 当日は、講話だけでなく研究所での簡易実験や製造現場の見学を加えました。まず、スリーボンドの創業エピソードから始めました。

 戦争から生きて帰ってきた創業者が、「なぜ自分だけ生きて帰ってきてしまったのか?」と悩み、それが「何かを成し遂げるために生かされた。」と考えるようになり、一滴の漏れ落ちるオイルをみて、その一滴を漏らさない仕事で日本に貢献できる。それこそが生かされた使命だと強く思った「究極の死生観からの創業」について紹介しました。

 そして、接着剤の使用例を講話・実験・現場見学を通じ紹介しました。

 自動車の燃費向上のカギは、軽量化です。鉄から軽量な複合材料へと代替が進み、そこには溶接ではなく接着剤が必要です。同じように、スマホなどを薄型化して携帯性を向上するにも接着剤が活躍します。電気を通す導電性接着剤を使用し、接着しながら配線の役割をします。これから益々接着+αの機能が求められます。

 ボルトが緩まないように接着剤を使用するのですが、接着剤をマイクロカプセル化しボルトのネジ部に加工する事業もスリーボンドは行っています。ボルトを締めた時にカプセルが割れ接着剤が出てきてボルトを固着させます。あらかじめ当社で加工する事で、適切な量を確実に塗る事が出来、お客様の製品の品質向上に貢献しています。

 当社化成品工場の仕事は、約3000種類の原料を様々な配合で混ぜ合わせ、お客様のニーズに合わせた1600種類以上の接着剤を生産する事です。全世界に安定供給する品質管理体制の構築も重要な役割です。

 慶應義塾や仕事を通じて感じる私が伝えたい事は、以下の通りです。

1.世界で活躍するには、評価基準を世界基準にする

 世界基準は若いうちから現地現物で身につける。海外旅行でもいいですが、現地に留学するなど生活をする事で、生の情報や価値観が体得できます。インターネットやテレビなどでは得られない大事な答えが現地にはあるのです。

2.自分のアイデンティティを磨き語る

 これからピュアな技術が大事な時代になってきます。しかし、どんなに素晴らしい技術を持っていても、それを伝えられないと意味がありません。特に海外では自分の事を語れないと相手にされない。自分のアイデンティティを磨いて、それを語れるようになる事が大切。皆さんには、まずは日本人であり慶應生である自分の事を語れるようになって欲しいです。

3.慶應義塾の人生について

 慶應義塾にいるというだけで、ものすごいチャンスがたくさんあります。目路はるか教室でも分かる通り、会おうと思えば、誰にでも会える。勉強したければあらゆる分野の一流の事が学べる。なろうと思えば誰にでもなりたい人間になれるのです。素晴らしい環境なので、充実した慶應義塾の人生を送ってほしいです。

 私自身、普通部生の時には分からなかったのですが、今思うと身近な大人として普通部の先生たちがいた事が、その後の人生において様々な大人と接するときの物差しになっていると思います。当時先生たちとの交流を通じて学んだ事が、私のコミュニケーションの原点です。

 今回の目路はるか教室で私が身近な大人の一人として皆さんと交流した事が、少しでも同じような影響を与えられたなら何より嬉しいです。

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