2017年度 目路はるか教室

2Hコース

しっかり眠ってスッキリ目覚める麻酔の話

昭和56(1981)年卒業東京都済生会 中央病院

柏木 政憲 氏(かしわぎ まさのり)

 私は、手術に伴う肉体的・精神的苦痛や危険から患者さんたちを守る麻酔科医という仕事にとてもやりがいを感じています。皆さんの目に、私はどう映ったでしょうか。

1)講義「麻酔とは」

 麻酔には、意識もなくなる全身麻酔と、体の一部分だけ痛みを感じなくする局所麻酔があり、手術の大きさや、健康状態によって麻酔科医が決定します。全身麻酔薬は静脈や気管の中に、局所麻酔薬は手術をする場所の近くや背骨の隙間から注射で投与されます。現在では医学、電子工学の発達で麻酔の安全性は向上し、しっかり眠ってスッキリ目覚めるために眠りと痛み止めを区別してコントロールする取り組みが広く行われています。

2)手術室・全身麻酔装置見学

 着替えと手指消毒の後、手術室に入って空調、照明、機械式とデジタル式の2種類の全身麻酔装置を見て、触れてもらいました。続いて、医師が設定した血液中濃度を維持するようコンピュータが流量を調節してくれる全身麻酔薬投与装置、血圧計や心電図計、脳波解析による麻酔深度測定装置、血液中及び脳内の麻酔薬濃度計算機能付きの麻酔経過記録システムを紹介しました。未来社会ではこれらを接続し、全身麻酔の深さを人間が音声で指示するだけで麻酔薬が自動で投与されたり、人工知能が麻酔経過のデジタル記録や手術のビデオ記録を学習して人間の麻酔科医のやり方を再現したりするかもしれません。皆さんは、開発者、医師、それとも患者、どの立場になるのでしょうか。安全性の向上、責任の所在、社会保障費抑制など、技術面以外の要素も含め考えてもらいました。

3)講演「私の普通部・塾高時代」

 普通部ではテニス部とコンピュータ部に所属していました。大人になってから、部活の経験は仕事上の技術習得や協働作業に、労作展での時間をかけて興味ある分野を掘り下げていく経験は医学研究活動に、多摩川10km走6回の経験はフルマラソンに出場につながりました。林間学校やスキー学校で悪ふざけをして叱られたことも楽しい思い出です。

 私の在学時の普通部長は香山芳久先生(1945年普通部卒)でした。入学式で「普通部生は小さな紳士」とおっしゃったのが印象的でした。一年生で数学を、三年生の選択音楽でフルートを教えていただきました。姿勢が良く、元気あふれる快活なお人柄で、人柄に裏表がある人は嫌い、自分では何もせず批評家ぶる人は嫌いとおっしゃっていました。数学教諭かつ音楽愛好家である香山先生からは大きな感化を受けました。

 慶應義塾大学への進学が約束されていても、私の場合は大学受験を控えた兄弟の目障りにならないよう家で机に向かう必要があり、その結果としてそこそこ良い成績を取ることになりました。

 慶應義塾高校に進学し、ギター部や、国際交流プログラムで楽しく過ごしていました。二年生までは経済学部志望でしたが、同級生たちから「よく言えばユニーク・悪く言えば理解不能」と言われる自分の性格ではビジネス界は無理とあきらめ、三年生では理系コースを選択しました。医師は困っている人の力になれる仕事ですが、医学部の学費は桁違いです。我が家は質素で地味なサラリーマン家庭で医学部には縁がないかと思いましたが、勉強は続けました。両親は、私の生活態度、学業に対する姿勢や、兄弟のうち一人だけに多額の学費をかけて家族の和が保っていけるかなどを考えて決断してくれたようです。

4)授業を終えて、普通部生に伝えたいこと

 慶應義塾では正課と課外のバランスが重視されます。大人になった現在では、その大切さがよくわかります。勉強や仕事ばかりでは、人生を生き抜くことは難しいのです。仕事以外の活動や趣味を持ち、家庭や交友関係を充実させることに努めてきた大人は、健康で、強く、幸福で、勉強ばかりの人よりも成功しています。皆さんには学業だけではない学校生活を送って欲しいと思います。ありがとうございました。

前の講師を見る

2017年度トップに戻る

次の講師を見る