2020年度 目路はるか教室

3Jコース

木の時代を生きる皆様へ

1991(平成3)年卒業株式会社 長谷川萬治商店 代表取締役副社長

長谷川 泰治 氏(はせがわ たいじ)

 この度、目路はるか教室の講義にお声をかけて戴きありがとうございました。

 環境問題や社会問題の解決策の1つとして循環型資源である木材の利用が注目されています。日本でも木造ビルが建設されるなど「木の時代」に向けた動きが盛んになってきました。私は、木育(もくいく)という活動の中で、木の良さを伝えていくことに取り組んでいます。今回の講義では「木の時代がやってくる」というキーワードで、ワークショップとともに木育と最新の木造技術のお話をしました。

 古来より日本人は森や木と上手に付き合ってきました。多様な植生環境により世界に類をみないほど多くの樹種が日本には存在します。多様な樹種を、杉は建築に、桐は箪笥に、イチョウはまな板になど、その特性を活かし使い分け、豊かな生活を営んできました。また、「木取り」といって丸太から材を取る時にも、板目材は水を通さないから樽や桶に、柾目材は水を吸収するのでご飯のお櫃に使うなど用途に応じて切り方を工夫していました。現在、日本は国土の3分の2が森林という森林大国です。森林資源を有効に使っていけば、地域の木材業の活性化にもつながり雇用も創出できます。

 他にも木の良さはたくさんあります。桧のお風呂が気持ちいいという体験をした方もいると思いますが、実験によって木の香りや木に触れることによってリラックス効果があることが医学的に証明されています。人間は700万年近く森の中で過ごしてきたので、都市環境よりも自然環境の方が適応するからだと言われています。また、木は光合成により二酸化炭素を吸収し炭素を幹に固定化していきます。木材が建築や家具として利用されることにより、その固定化された炭素が街中に保存されていくことになり、地球温暖化を緩和する一つの方法だと考えられています。

 木の弱点についても、実は大きな誤解があります。同じ重量であれば鉄やコンクリートよりも引っ張り、圧縮、曲げ強度に強く、燃えた時も炭化して燃え進むのが遅くなり、火災時には鉄よりも長い時間強度を保つことができます。さらに、木の欠点を除去して貼り合わせることにより精度と強度を高めた集成材や、石膏ボードを挟みいれて3時間耐火構造仕様となる新しい木質材料が開発され、これまで鉄やコンクリートでしか建設できなかった木造高層ビルが建てられるようになりました。講義では木造建築事例をいくつか紹介しましたが、いよいよ2021年には7階建ての木造ビルが仙台に完成し、2025年には日本橋に17階建ての木造ビルが建設される予定です。さらに、「公共建築物等木材利用促進法」という法律により、多くの公共建築物が木造化、木質化されてきました。現在、民間の建物にもこの法律を適用していこうと自民党の議員団体が議員立法による法制定を目指しています。この法律が制定されれば建物の木造化が飛躍的に進み、普通部生が社会に出て活躍する頃には「木の時代」が到来していることでしょう。

 今回、私の経歴について「どうしてソニーから材木屋になったのか」という質問がありました。実家が材木屋で4代目だからということもあるのですが、だったらなぜ理工部なのか、ソニーなのか、というところが疑問点だったのかもしれません。もの作りの世界に魅力を感じていたからなのですが、もの作りの分野で習得した技術は材木屋の経営においても役立ち、スロバキアでの海外駐在を含めた多様な経験は人生を彩り豊かなものにしました。また、全力で取り組んできたことは、成否を問わず全て貴重な財産になっています。

 今回の木のお話が、受講した皆様の生活の中で何か変化のきっかけになれば嬉しく思います。将来「木の時代」を生きる皆さんが、様々な分野で活躍して豊かな社会を築いていくことを願っています。

 

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