2020年度 目路はるか教室

3Fコース

大学における無機材料開発の最前線

1987(昭和62)年卒業神奈川大学 工学部 物質生命化学科教授

本橋 輝樹 氏(もとはし てるき)

 はじめに、このような貴重な機会を頂きましたことにつきまして、目路はるか教室世話人の皆さまに深く御礼申し上げます。現在、私が大学教員として教育・研究に励むことができるのも、慶應、特に普通部での学びを受けたからこそだと思っております。そこで、我が後輩たちにも研究者を目指してもらいたいと考えていた次第です。当初は「無機材料の開発研究を体験しよう!」と題し、神奈川大学の研究室にて最新の実験装置による研究体験を計画していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため通常授業に変更をせざるを得なくなりました。しかしながら、簡単な実験を交えた授業により材料開発研究の面白さを伝えることができたのではないかと信じております。

 目路はるか教室の当日は、3部構成で授業を行いました。ここに授業概要を振り返りたいと思います。

第1部:自己紹介と経歴

 普通部時代の思い出、塾高〜大学での学び、ドクター〜教授着任までの研究者人生を紹介しました。事前リクエストに応え、助手時代のフランス留学・奮闘記を取り入れました。私の研究者人生を振り返り、後輩のために3つのメッセージを述べました。

・何事にもチャレンジしよう!

・すべてのことに全力で打ちこもう!

・嫌いになるほど勉強しないように!

第2部:無機材料について

 私が専門にしている「化学」の勉強をしました。特に「無機化学」では多彩な元素の組み合わせにより無数の化合物をつくることができ、その中にはユニークな性質によって人類のために大活躍してくれる材料が存在しうることを述べました。具体例として、以下の無機材料を紹介しました。

・IT社会を支えるリチウムイオン電池(電極材料)

・「現代の灯り」に欠かせない蛍光体

・省エネルギー化への応用が期待される熱電変換材料

・水と太陽光からの水素製造を可能とする光触媒

 蛍光体と熱電変換材料については、実物を体験してもらいました。また、光触媒の先端研究に関するビデオを視聴しました。

第3部:無機材料の開発研究

 中学・高校と大学での学びの違いや、材料開発の現場で具体的に行っている実験を説明しました。実例として、原子一つ一つを元素の種類まで見分けられる最新鋭の電子顕微鏡の画像を示しました。さらに、私自身の研究室で取り扱っている二つの無機材料、(1)生物のように酸素を吸ったり吐いたりする「酸素貯蔵材料」、(2)電気自動車の次世代蓄電池への応用が期待される「酸素発生反応触媒」を紹介しました。

 最後に、これらの材料が別のことを研究しているときに偶然見つけたものであり、このような発見を「セレンディピティ」と呼ぶこと、セレンディピティを生み出すには基礎勉強が不可欠であり、学生時代に地道な努力をすることが重要であることを述べました。

 最後に、今回の目路はるか教室を支えて頂きました普通部の先生方、および私の授業を熱心に聴講してくれた後輩たちに改めて感謝致します。この授業をきっかけに後輩たちが工学研究に興味を持ち、ひいては研究者を志してくれることを期待しております。

 

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