2019年度 目路はるか教室

3Hコース

フォトグラファーという天職

昭和61(1986)年卒業株式会社 清水健写真企画事務所

清水 健 氏(しみず けん)

 この度は、社会的な成功も信用もない私のような何でもない人間が、目路はるか初であろう「しくじり先生枠」のパイオニアとしてお話をさせていただきました。本当に自分でいいのか?という思いは拭い去れませんでしたが、先生や世話人の方々の、普通部生に対する深い愛情に触れ、少しでも恩返しをできればと思いお引き受けさせていただきました。正解の定義が曖昧になりつつある今の社会においては、私のような人生でも不正解ではないのかもしれません。この曖昧な世界でより良い人生を過ごすために大切なことは、その正解を「自分自身で決めてしまう」ことだと強く信じています。今回の講演では、失敗や敗北、間違いだらけの自分の過去を振り返り、そのトライ&エラーの先にどのような選択をしたのかというお話をさせていただきました。もちろんこうした体験は、私自身にしか適応されないものですが、それぞれの人生に上手くカスタマイズして、何かひとつでも参考事例にしていただければと願っています。

 私が普通部を卒業したのは今から33年前です。そしてこの30年という時間が、今回の講演の縦軸となり、30年前の自分に伝えておきたいことをお話ししました。それは例えば、「とにかくご縁を大切にしろ」とか、「やはり健康は財産だ」とか、実際に自分で感じなければ意味のないことであり、30年前の自分に伝えても伝わらないことですが、何を伝えたかったかと言えば、今見て感じている風景は30年後にはまた別の風景になるはずで、でも結局すべてが繋がって積み重なるので、ただボーっと生きるのではなく、五感を研ぎ澄まして常にアンテナを張り、遊びだろうが何だろうが、とにかく純度の高い「今」が積み重ねてくださいということでした。

 講演の横軸としては、私の人生を劇的に転換させた星野道夫さんという動物写真家のお話です。星野さんとの運命的な出会いにより、当時の私は「自分のやりたいことは動物カメラマンだ」と勝手に決めつけました。幸か不幸か、人生の選択肢がなかったことも幸いし、こんな無謀な決断ができました。大学で落第してしまったことも、今から思えば大正解な出来事でした。目標さえ定まれば、後は行動するだけですが、学校での勉強を疎かにし続けたせいで英語力はゼロ、カメラさえ持っておらず、しかも動物の知識も皆無という三重苦にもかかわらず、大学卒業後に渡米して動物カメラマンを目指すという暴挙に出てしまいました。そのためアメリカ生活では、ゼロというよりマイナスから始まる果てしのない戦いの日々が続くことになってしまいましたが、そんな戦闘の日々の中、人間として、カメラマンとして、最も重要なことはやはり「コミュニケーション能力」だと学びました。星野さんからもたくさんのことを教えていただき、そんなことをお伝えしました。

 「自分のやりたいこと」には、本気で何かを探し、その手掛かりを懸命に育んで、正解でも不正解でもそうだと断定し、それを実際の行動に移すことで辿り着くことができました。目標を成し遂げようとする情熱と意欲と行動が、自分の人生を決めてくれるはずです。つい先日、理論物理学者である佐治晴夫先生のお言葉を目にしました。過去・現在・未来という時間の流れからすると。「これまで」が「これから」を決めることになりますが、「過去」とは脳内の残る実在しないメモリに過ぎず、これからどう生きるかによって過去の価値は塗り替えられるというお話でした。つまり「これから」が「これまで」を決めるというお話で、残念ながらこれを普通部生にお伝えすることはできませんでしたが、たった一度の人生が、未来も過去もより良くなればと願っております。

 

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