2018年度 目路はるか教室

2Fコース

生まれつきの心臓病の子どもたち、そして成人のために 〜小児医療と医学研究の現場から〜

昭和54(1979)年卒業慶應義塾大学 医学部小児科 教授

山岸 敬幸 氏(やまぎし ひろゆき)

 「目路はるか教室」で母校・普通部の生徒さんたちにお話しをする機会をいただき、大変光栄でした。熱心に参加してくれた生徒の皆さん、準備・引率して下さった普通部の教職員の方々、世話人の方々に感謝申し上げます。

 私の「目路はるか教室」は、今年5月に竣工したばかりの慶應義塾大学病院・I号館でした。大学病院の教授の仕事「臨床・教育・研究」を皆さんに紹介し、肌で感じて理解してもらおうと考えました。

 まず、臨床の現場として、先進的で真新しい病院の中を生徒さんたちに直接見ていただき、何かを感じて欲しいと思いました。病院長の許可を得て小児科外来、心機能検査室、周産期・小児医療センター病棟(NICU、GCU、モニター室)の見学を計画しました。心機能検査室では、生徒さんたち自身に心電図と心エコー検査を体験してもらいました。感染症予防の理由などから、事前の問診、体温測定、白衣・マスク着用と、お手間をおかけしましたが、生徒さんの感想を拝見し、実際に見て体験していただくことができて本当によかったと感じました。

 また、研究の現場として、小児循環器研究室にも足を運んでもらいました。私が専門とする小児循環器領域では、先天性心疾患の患者さんの診療が主な仕事です。より良い治療を目指して、心臓発生の研究を続けています。研究室では生徒さんたちに実際に顕微鏡を覗いて、実験動物(マウス)の胎仔、心臓切片や実験に用いるiPS細胞をとても熱心に観察してもらいました。私自身そうでしたが、あの普通部の理科の実験と大変なレポートの宿題が、将来とても役立つものだと感じてもらえたかもしれません。

 そして、教育の現場として、私が普段授業や講演会などでお話している内容を普通部生向けにアレンジした「世界に発信する臨床心臓発生学のスゝメ」と題する講義を受けてもらいました。専門的な難しい内容もあったと思いますが、皆さんの感想文を読んで、よく理解していただけた様子が嬉しかったです。

 「目路はるか教室」当日ご紹介したように、大学病院の医師は大学・医学部の教員でもあり、そして医学の研究者でもあります。「臨床・教育・研究」をバランス良くこなすのは難しいことですが、いろいろな夢を持ち、多くの達成感や充実感を得ることができる仕事です。

 小児科は従来単科ですが、大学病院では高度な医療を、私が専門とする小児循環器を含めて13の専門診療チームで担っています。さらに、胎児から成人期までライフステージに沿った診断・治療・管理により、国民の健やかな成長・発達、就学、就職、社会適応、福祉など幅広い領域を担っています。私自身は新病院で、多くの診療チームをまとめるために統括力と調整力を発揮し、安全で高度な「連携と調和」に基づいた「周産期・小児医療センター」の運営にもやりがいを感じています。また、先天性心疾患診療の中で、心臓が形づくられ、そこに機能が宿る「発生の世界」に魅了され、その異常(病気)の原因を突き止める研究を続けてきました。臨床と基礎研究の指導を通じて、病態や治療を論理的に考えることのできる、優れた科学的思考と問題解決能力を有するphysician-scientistの育成を心がけ、同時に医師の「優しさ」も伝えていきます。

 自己紹介の通り、私は慶應義塾幼稚舎からこれまでずっと慶應義塾で学び、勤務してきました。慶應義塾の目的、「気品の泉源、智徳の模範」を重んじて社会の先導者となるよう努めよ、という教えを意識した医師・研究者を目指し、普通部生の皆さんにも、以下の4つの大切なことと一緒にお伝えしました。

● 論理的に考えよう

● 独立自尊・自我作古であろう

● 10年継続しよう(10年先の自分=目標をイメージしよう)

● 同じ志の〝仲間〟と出会おう

 皆さんが、記念のピンバッジに象徴された「ペンマーク」を胸に、将来社会に、そして世界に大きく羽ばたいてくれることを期待し、楽しみにしています。皆さん、夢・目標を持って、頑張りましょう!

 最後に、当日心機能検査室見学・体験に協力して下さった、前田潤先生、多喜萌先生、検査技師の皆さん、研究室見学・体験に協力して下さった、内田敬子先生、古道一樹先生、石崎怜奈先生、小池久貴君(医学部4年生・普通部卒)、誠にありがとうございました。

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