2018年度 目路はるか教室

2Dコース

研究する日々

昭和52(1977)年卒業東京工業大学 理学院

山田 光太郎 氏(やまだ こうたろう)

 2018年11月9日、快晴の土曜日に東京工業大学大岡山キャンパスまでおいでいただきました。慶應義塾大学以外の大学の敷地に立ち入るのは初めての方もいらっしゃったと思います。「昔の普通部生とは随分違うよ」と複数の方から伺っていましたが、昔の「やんちゃな男子」の雰囲気は変わらず、安心しました。

 東京工業大学本館(築80年程度、慶應義塾高等学校の本館と同じくらい古く同じくらい壁が厚い)の数学系セミナー室にて2時間ほどお話をさせていただきました。引率の三船先生は学生時代に通ったところなので懐かしかったのではと思います。

話したかったこと:研究とは何をすることか;数学の研究とは何か;研究者の生活;大学は何をするところか

話したこと:・自己紹介。ベルリンの壁は日曜日にできたこと。戦後東ベルリン労働者に端を発したデモ(ベルリン大暴動)は壁ができるかなり前、我が国最強の怨霊となった菅原道真の命日に入学試験をやっているので日本の国立大学は危機的な状況になっているのでは、などなど(参加した人でないとわからないですね)。

・研究とは何をすることか?それは世界中の誰もが知らない事実を見つけること。もちろん誰もが知らない事実なのだから「研究計画」どおりには進まない。むしろ予定外のことが面白い。したがって「重点研究分野」とか「選択と集中」には意味が(ほとんど)ない。

・数学の研究とは何か?数学における事実とは「定理」、事実であると保証は「証明」。面倒くさい証明は実は数学研究のご本尊。

・数学で研究することなんてまだあるのだろうか。中学校で学ぶ数学はだいたい2000年前から200年前までの数学。それからずっと数学は進歩し続けて、わかったことはたくさん、その結果わからないことも増えた。これを中学生や高校生に説明するのはまさにmission impossible.

 ここまでの前置き(約1時間)のあと、数学の考え方のエッセンスを紹介しました。題して「かぞえてみよう、または数のかぞえ方」。数えるとはどういうことかを反省し、何と何を「同じ」と見なすかが重要だということを納得してもらい、その上で、中学校の数学で学ぶ円や三角形を数えてもらいました。すなわち「平面上の円・三角形は何種類あるか」。2つの円(三角形)がどういうときに「同じである」と考えるかによって答えが違ってきます。数学の言葉で「同値関係」と「自由度」という考え方を紹介したつもりです。数学の研究で「数を数える」場面はたくさん出てきますが、そのときの基本的な考え方だと思います。私達は日々こんなふうに数学的対象を数えているのだ、ということが伝わったでしょうか。

 こういう議論をしていると言葉が大切だということがわかります。人類の機能は言語を獲得して格段に強化されました。もちろん、言葉で説明しきれない事象はたくさんありますが、言語の機能は意外に高いのです。使いこなすための訓練が必要ですが、少しだけでも意識してもらうとよいと思います。

 皆さんの中で、研究者になる人はそれほど多くないかもしれません。研究、とくに基礎研究や人文科学の研究は「役にたたない」ともいわれています。しかし、これらの研究は人類全体の知識を広げ、言葉の機能の強化にもつながります。そういうことをやっている人々がいるのだ、ということを心の隅においていただけるとありがたいと思います。

 中学生の年代、とくに普通部生という恵まれた環境にいる皆さんは、何にでもなれる可能性を持っています。多くの可能性の一つ一つを棄てて大人になっていくのですが、その選択のための情報源として「目路はるか教室」が続いているのでしょう。それに参加する機会を与えてくださった世話人の皆様、実施担当の先生方、ありがとうございました。引率の岡野先生、三船先生、当日の段取りがもたもたしてご迷惑をおかけしたかもしれません。ありがとうございました。

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