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2017年度 目路はるか教室 3Aコース

生命の創生と女性の役割を考える

末岡 浩(すえおか こう)
昭和45(1970)年卒業 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 准教授

 人類を構成する性は二つしかない、その中で男性として成長する上での極めて貴重な時期を過ごす普通部は、まさに男性のみの世界である。一方で、共学の学校と異なり、女性と接する機会がないことは良くも悪くも人格形成の上で影響を及ぼしていないとは言い切れない。生物学的に言えば性の存在は次世代への生命を引き継がせる上での根幹である。普通部を卒業したにも拘わらず、女性と関わる機会の多い仕事に就いている私は、常日頃より性は自らの性のためにではなく、相手の性のためにあると感じることが多い。

 本来、この二つの性は心も身体も異なるものである。そのなかでヒトは他の生物と異なり、人間社会を形成し、仕事場などの社会生活の上では性の違いに拘わらず同じような到達目標が求められているように見受けられる。家事や出産・子育てなど、男性が余り関わらない、または、関われない重要な役割を、現実的には女性が負っていることも事実である。女性はその家庭生活の負担に加えて、社会進出の裏返しとして、本来の特性の違いが余り考慮されることなく、責任や能力を男性と同じように求められる現実がある。現代の女性の負担はいかにも大きいものがある。一方の男性の立場として女性に対する興味や愛情をもつことは大切な本能である。その上で女性の負担を理解し、リスペクトすることは極めて重要なことである。

 わが国の一家族の中に生まれてくる子どもの数を示す合計特殊出生率は、一時1.28まで低下し、現在は政府の努力もあって、1.44まで回復したとはいえ、なお人口は減少を続けている。晩婚化が進み、女性が子どもを産んで育てられる期間はさらに短くなり、社会の中でキャリアパスを築いてきても、出産子育てのためにその成果を放棄せざるを得なかったり、将来の社会人としてのキャリアを諦めざるを得なかったりすることが大きな課題となっている。将来普通部生が社会人となり、同じ職場で仕事を共にする女性や、自らが家庭を持った時に自分の妻の抱える課題と対峠した時、そのキャリアパスを維持発展させるためにどのように協力出来るのかを考えてみることはとても重要な命題である。その思いから目路はるか教室の時間を普通部生と共有する機会にさせていただいた。

 私の仕事は主に女性を相手にする専門分野である。しかも職場には看護師を始め女性が多く働く環境にあり、普通部時代には想像もしなかった現状に、ふと驚くことがある。しかも、仕事上では医療の技術を用いて新たな生命を創出するための研究と診療を続けている。これも学生時代には想像していなかったことである。その医療の発展は凄まじく、わが国で1年間に生まれて来る97万人余の出生児のうち、体外受精で生まれた子どもの数は51,000人に及び、そのうち70%が凍結保存した受精卵から生まれている。その上で親は皆、健康な子どもの誕生を期待している。これに対して私は、遺伝的に病気を発症する可能性のある人々の受精卵から遺伝子解析を行い、安全な受精卵を移植して妊娠を成立させる着床前遺伝子診断をわが国の先駆けとして発展させてきた。

 これらの医療は、個々の人々の苦悩に向き合い、救いへの期待に応えるためのものであることに相違ない。支えられる必要のある人々を実際に支えるためには、支える側の充分な人々も必要である。これらの医療は社会を支える人口を維持することにもつながることになる。それは我々の国の安定した幸福な社会を構築するための作業ともいえるのではないかと考えられる。少子高齢化のために人口ピラミッドは社会保障の制度設計が行われた1950年代と比べて大きく変貌を遂げ、僅かな若い人口が過大な高齢者人口を支えなくてはならなくなっている。国民の多くが余り認識していない事実として、わが国の国家の財政状況が世界のワースト1であることが挙げられる。数字上、疑う余地はないのだが、差し迫った不安を抱いている人は少ない。誰もが破綻することはあり得ないと思っているわが国の状態が、あのギリシャよりもはるかに危機的である驚くべき事実を我々国民は認識しなくてはいけない。その国家の基礎となる人という財産を創出することは最も大切なことである。そして、同時に社会を維持発展させるためにも男女共同参画が必要なのである。それは単に仕事の上での男女平等ばかりではなく、個々の性の特性を理解した上で男女が協力して役割を分担していくべきことであろう。

 普通部で学ぶ私の後輩達が"女性"の存在と役割を認識し、男性としてどのように関わり、協力していけるかを考えて行くきっかけとなれば幸いである。


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