HOME 目路はるか教室 2017年度 目路はるか教室 2Bコース

2017年度 目路はるか教室 2Bコース

しくじり先生・老舗カバン屋を立て直す〜アメフトが教えてくれた人生の戦い方〜

濱野 有(はまの ゆう)
昭和50(1975)年卒業 株式会社濱野傳吉商店 代表取締役社長

 目路はるか教室講師のお話を打診され、正直なところ困惑しました。中学生にどこまで生々しい実社会の話が理解してもらえるのかわからなかったからです。

 明治時代に創業した家業のカバン屋は、4代目の私が事業継承後に倒産の憂き目に遭いましたが、民事再生を経て復活させることに成功しました。これは中小企業ケーススタディーとして実業セミナーのネタにされる案件で、さすがに中学生には厳しいテーマであることを承知していたので、アメリカンフットボールで培ったチームスポーツの戦略性を人生の戦い方に生かした話として、中学生にも分かりやすく講義をすることにしました。

 そして迎えた授業当日の朝、私は24名の中学2年生を目の当たりにして、またもや気持ちが揺らぎます。純真な眼差しにオジサンの苦労話は似合わない...シリアスなテーマをなるべくエンターテイメント化するべく臨みました。

 まずは自己紹介がてら幼稚舎から普通部時代のエピソードで失笑を誘います。幼稚舎6年の時に体が大きく足の遅い私は運動会で入賞を夢見て一計を案じました。障害物競走にて先行する走者が平均台に差し掛かった時を見計らって後ろから平均台に体当たり、振動で全員を落下させ悠々とメダルを獲得した話で幼少時から作戦によって弱者が強者を倒すことを実践した話、また普通部では1年の中間試験で外部受験者との圧倒的知識量の差に愕然とし、おとなしく控えめなキャラクターを自ら一変させ積極果敢なスタイルに転向。A組からE組を股にかけ情報収集に走りデータ分析することでテストを乗り切り、平均レベルの成績を収める一方で、積極果敢が行き過ぎて多々の問題を引き起こし毎週教員室に呼び出されていた事も告白しました(今でも私の母は自分ほど普通部の教員室に出入りした親はいないと豪語しています)。

 そして高校からアメリカンフットボールに出会った私は、強いものが勝つのではなく、高い戦略性を持ち変化に対応したものが勝つこのスポーツに魅せられてゆきます。スカウティング➡データマイニング➡ゲームプランの作成➡毎プレーごとのアジャスト。自然に身についたこのロールプレーイングが老舗カバン屋の復活には不可欠な思考でした。

 先代の逝去のあと42歳で家業を引き継いだ時には、すでに市場環境の変化に気づいていましたが、老舗のしがらみから急激な変革はできない状態にありました。良いものだけを供給すれば顧客に評価される時代ではなく、こちらから積極的にアピールをしなければならない時代に市場は変化を遂げていたのです。

 私の選択は120年の歴史を持つ老舗家業を一度リセット、民事再生法で復活、製造・卸の業態を製造・小売りへと転換して会社の規模を縮小しても高い利益を確保する戦略でした。結果として最盛期300人を抱えた事業を100人に絞り3年で元の規模まで戻すことに成功させました。ここで大きな鍵になったのはインターネットを利用したeコマースとテレビショッピングの導入で、どちらも消費者に直結したことにより新たなターゲット層にブランド認知が進むことになりました。

 簡単そうな話ですが、新会社設立に際してはスポンサーを探すために自分から見えない世界を切り開く積極性が必要でしたし、新たなビジネス構造を生むために市場や消費者ニーズの分析、作戦を実行に移しながら日々の変化に対応・アジャストすることが不可欠でした。そしてやっと新会社が落ち着いたときに、ふと思い返してみれば私が駆けずり回った老舗家業の立て直しとは、芝のフィールドを社会というフィールドに置き換えただけであったことに気付いたのでした。

 波乱万丈の半生記が普通部生に役に立つたかどうかは疑問ですが、自ら考え(スカウティングとデータマイニング)作戦化し(ゲームプランの構築)実行しながら変化に対応(アジャスト)することの大切さと面白さを後輩たちに少しでも伝えられたら本望です。


< 前の講師を見る

目路はるか教室 トップに戻る

次の講師を見る >

トップへ