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2017年度 目路はるか教室 1Hコース

〝出る杭〟こそが新しい時代を築く

菊池 正史(きくち まさし)
昭和59(1984)年卒業 日本テレビ政治部

 今回の教室は「出る杭になろう!」というタイトルを付けました。しかし、日ごろの生活の中で実際に「出る杭」になることは非常に難しい。「出る杭」とは何か、この自分は何のために「出る杭」となるのか、長い時間をかけて、様々な経験を通して考え続けなければなりません。

 ただ、私が一番に伝えたかったことは、「違和感」を大事にしてほしいということです。そもそも私自身が、普通部に入学した時、「なんかこの世界は、ちょっと違うぞ」という「違和感」を抱きました。それは、普通部ならではの伝統、醸し出されるスマートで洗練された雰囲気、そして古い言葉を使えば「ブルジョア」的な豊かさと価値観、そんな自分にとって異次元の世界へ飛び込むことに、期待と喜びがあると同時に不安や引け目を感じていたんだと思います。

 何とか溶け込もうと、とりあえず野球部に入ってみましたが、馴染めずにすぐやめました。結局、3年間〝帰宅部〟です。部活に励み、たくさんの友達の輪を作って明るくワイワイ騒ぐ連中を見ては、何がそんなに楽しいのかと、斜に構えていました。

 それでも、友達はできるものです。私の小さな「違和感」を含めて、多様性を受け入れ、認めてくれた先生、友人、先輩に出会うことができた。そんなにたくさんはいないけど、その濃密で深い関係は、私の宝です。

 日常生活で感じる「違和感」にこそ、自分だけの感性や考え方が潜んでいます。そして社会全体に対する「違和感」を大事にするということは、力の強い人たちが作りあげる世の中の空気に流されず、自分で価値判断する第一歩です。あなたの周辺にもいるかもしれない口達者、美辞麗句を並べ実績を強調する政治家、そして、もしかしたら先生の言うことでさえ、「それって本当かな?」と立ち止まって考えることが大切だと思っています。

 流れを作ろうとする権力者は、昔ほど威張りはしない。しかし説明を嫌い、妥協せず、「自分の言うことを聞いていればいい」と思いがちです。そして取り巻きたちは、その傲慢さを注意するどころか「忖度」して流れを加速させます。

 しかし沈黙のまま流されれば、その向こうには、大失敗が待っているかもしれない。会社でも組織ぐるみの不正は後を絶ちません。政治の場合はもっと大変です。70数年前の戦争では、結果として300万人以上の国民が死んでしまった。その歴史から日本人が学んだことは、「権力は失敗することがある」ということです。

「ここが違うのではないか。こうすればいいのではないか」という考えがあったら、何らかの方法で表現してみてください。みんなの前で意見を言うもよし。文章を書いて読んでもらうもよし。自分だけの日記でもいい。芸術で表現するのもいいかもしれません。

 2000年代半ばまでは、兵士として戦い、空爆の中を逃げ回った世代の政治家や財界人がたくさんいた。彼らは、「あの悲惨な戦争を、なぜ多くの国民が支持し、反対していたとしても止められなかったのか」と反省し、議論し、平和と繁栄を築いてきました。

 しかし、今、その世代が、社会の第一線から姿を消し、身をもって失敗の怖さを語る人がいなくなった。つまり、我々は、新たな時代を生きていると言うことです。さあ、どういう時代を築くのか、戦争で苦しんだ人々が再建した社会をどう継承していくのか、皆さんも、自分の頭で考え、表現しなければなりません。

 福澤先生は「自由の気風は多事争論の間にあり」と説きました。権力者がどんなに正しいことを言っても、それにだけ支配されたら自由はない。自分の意見を言い、違う意見も取り入れる。そこに健全な社会が育まれるということです。この「多事争論」こそが慶應義塾の精神であり、教養と胆力を磨くものだと思います。ともに切磋琢磨していきましょう。


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